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アジマティクス

ここをこうするとおもしろい

ひとつだけでいいから「ほとんど整数」を理解したい!

「ほとんど整数」って、ご存じですか。

ふざけているわけではありません。wikipediaにそういう記事があるんです。

ほとんど整数 - Wikipedia

詳しくは読んでいただければわかるのですが、すなわち「 -0.99999020655…(ほとんど-1)」とか、「19.999099979...(ほとんど20)」みたいに、「整数じゃない(小数部分がある)けど、整数にとても近い数」のことです。

厳密に定義された数学的概念というわけではなく、とにかく整数に近い数をたくさん集めたよ、という異色の記事です。それでも「なぜこんなに整数に近いのか?」ということに対して合理的な説明がつけられるものがあったりして、非常に興味深いです(もちろん、ただの偶然のこともあります)。

Almost Integer -- from Wolfram MathWorld

↑英語ですが、こちらのリンクにはもっとさくさん「ほとんど整数」の例が挙げられています。

飲み会とかの話の種としてひとつぐらい「なぜ整数に近いのか」を説明できる数でもあったらいいなーと思ってwikipediaを読んでいたのですが、そこは天下のwikipedia。初心者には非常にハードルの高い説明となってます。

なんとかひとつだけ! ひとつでいいから理解したい! ということで解説です。

黄金比の累乗

今回取り上げるのは黄金比の累乗」です。黄金比\phi(「ファイ」と読みます)とは数で言うと1.618033...のことで、見ての通りまったく整数ではありません。式で言うと「\frac{1+\sqrt{5}}{2}」であり、なんか平方根とか含んじゃってます。しかし、これをどんどん累乗していくと、

\phi ^{17}=3571.000280...

\phi ^{18}=5777.999826...

\phi ^{19}=9349.000106...

\phi ^{20}=15126.999933...

\phi ^{21}=24476.000040...

\phi ^{22}=39602.999974...

と、どんどん整数に近づいていくわけです。不思議です。指数(右肩のやつ)を1,2,3...と増やしていったときの小数部分の値をグラフ上に表示してみました。

f:id:motcho:20160727044556p:plain

横軸が指数、縦軸が小数部分の値です。指数が大きくなるにつれて、交互に10に近づいていっていることがわかります。小数部分が10に近づくわけですから、数全体としては整数に近づいていっていることになります。今回の問題はこれです。

\phi^nは、nの値をどんどん増やしていくとどんどん整数に近づく。それはなぜか?

黄金比とは

そもそも黄金比\phiは、方程式「x^2-x-1=0」の解として表わすことができる数です(厳密には、1:\phiのような「比」のことを黄金比と呼び、\phi自体は「黄金数」と呼ばれることがあります)

2次方程式なわけですから解はもう一つあって、そっちは「\frac{1-\sqrt{5}}{2}」です。分子の\sqrt{5}につく符号だけが違う数になるんですね。これは数で言うと-0.618033...です。

f:id:motcho:20160724145447p:plain

(2次方程式だから解が2つあるの図)

扱いやすいように、「\frac{1+\sqrt{5}}{2}」のほうを「\phi」、「\frac{1-\sqrt{5}}{2}」のほうを「\overline{\phi}」という記号で置き換えます。そして、この二つの数の「和」と「積」を計算してみます。

    \phi+\overline{\phi}

   \displaystyle =\frac{1+\sqrt{5}}{2}+\frac{1-\sqrt{5}}{2}

   \displaystyle =\frac{1+1+\sqrt{5}-\sqrt{5}}{2}

   \displaystyle =\frac{2}{2}

   =1

    \phi \overline{\phi}

   \displaystyle =\frac{1+\sqrt{5}}{2}\cdot \frac{1-\sqrt{5}}{2}

   \displaystyle =\frac{\left(1+\sqrt{5}\right)\left(1-\sqrt{5}\right)}{4}

   \displaystyle =\frac{1^2-\sqrt{5}^2}{4}

   \displaystyle =\frac{1-5}{4}

   \displaystyle =-\frac{4}{4}

   =-1

何故いきなり和と積を計算しだしたかは後で説明します。ともかく、和が1、積が-1で、両方整数となりました。

この後が問題なのです。wikipediaの説明では、次のように書かれています。引用します。

\phi+\overline{\phi}=1, \phi \overline{\phi}=-1であるから、これらの整数係数多項式で表せる対称式\phi \,^n +\overline{\phi} \,^n は整数である。

は?

対称式と基本対称式

なんだかよくわからないけれどもとにかく「\phi \,^n +\overline{\phi} \,^n は整数である」ということを言いたいようです。実はここでは、とても大事な事実が書かずに省略されています。その事実とはこれです。

すべての対称式は、基本対称式の組み合わせで表すことができる。

対称式

「対称式」とは、「変数を入れ替えても変わらない式」のことです。例えば、x+yは対称式です。変数であるxyを入れ替えるとこの式はy+xとなり、これは元の式と同じです。

少し複雑な例としてx^3-5x^2y-5xy^2+y^3も対称式です。数式を理解する必要はありません。「形」だけ見てください。変数を入れ替えるとy^3-5y^2x-5yx^2+x^3となり、これは掛け算の順序と項の並びが違うだけでやはり元の式と同じです。

それに対して、x-yは対称式ではありません。変数を入れ替えるとy-xとなり、これはすなわち-x+yのことなので明らかに元の式とは違います。

しかしこれを2乗した\left(x-y\right)^2は対称式です。これを展開するとx^2-2xy+y^2となり、xyを入れ替えても同じ式になることがわかります。

基本対称式

対称式の中でも「基本対称式」と呼ばれるものがあります。変数が2つのときの基本対称式は、「x+y」と「xy」です。この2種類の式の組み合わせだけで、すべての対称式を表現することができるというんです。「組み合わせで」というのは、ここでは「何倍かしたり、かけたり、足したりして」という意味です。本当にそんなことができるんでしょうか。さっきの「x^3-5x^2y-5xy^2+y^3」という2変数の式を例にとってみてみましょう。

まず-5x^2y-5xy^2の部分は-5xyでくくると-5xy\left(x+y\right)となり、確かに2変数のときの基本対称式であるx+yxyを、何倍かしたり、かけたり、足したりしてできています。

残りのx^3+y^3は、\left(x+y\right)^3-3xy\left(x+y\right)と式変形することができます。こちらもやはりx+yxyを、何倍かしたり、かけたり、足したりしてできています。

まとめると、「x^3-5x^2y-5xy^2+y^3」という式は「-5xy\left(x+y\right)+\left(x+y\right)^3-3xy\left(x+y\right)」と変形することができる、ということなので、確かにx+yxyの組み合わせで出来ているということがわかりました。

証明はかなり込み入っていてウワアアって感じなので書きませんが、これがすべての対称式で成り立つことが証明されています。「すべての対称式は、基本対称式の組み合わせで表すことができる」というこの定理は、「対称式の基本定理」と呼ばれています。

そして冒頭の式

x^n+y^n」という式は、xyを入れ替えると「y^n+x^n」となり、元の式と同じになります。すなわち、xyに関して対称式です。 対称式であるということは、基本対称式である「x+y」と「xy」の組み合わせで書くことができます。nがなんであっても。だんだん見えてきましたね。xy\phi\overline{\phi}に置き換えてみます。

\phi\overline{\phi}を入れ替えても変わらない「\phi \,^n +\overline{\phi} \,^n」という対称式は、基本対称式である「\phi+\overline{\phi}」と「\phi \overline{\phi}」の組み合わせで書くことができます。\phi+\overline{\phi}=1\phi \overline{\phi}=-1でした。先ほど唐突に和と積を計算した理由はここにあったのです。しかも都合のいいことに、x^n+y^nという形の式においては、基本対称式を「整数倍」した組み合わせだけで表すことができます。整数を整数倍しても整数のままです。というわけで、\phi \,^n +\overline{\phi} \,^nは整数である、ということがいえるのです。「実際に\phi \,^n +\overline{\phi} \,^nを計算せずとも、対称式の基本定理より、『整数である』ということだけは確実にわかる」てなわけです。スマートですね。

簡潔にまとめると、「\phi \,^n +\overline{\phi} \,^nは対称式なので、\phi+\overline{\phi}\phi \overline{\phi}の組み合わせで書くことができる。\phi+\overline{\phi}\phi \overline{\phi}は両方整数なので、整数の組み合わせで書くことができる以上、\phi \,^n +\overline{\phi} \,^nも整数である」ということです。

さっきの文言を見返してみましょう。

\phi+\overline{\phi}=1, \phi \overline{\phi}=-1であるから、これらの整数係数多項式で表せる対称式\phi \,^n +\overline{\phi} \,^n は整数である。

多項式で」というのがだいたい「組み合わせで」という意味です。この短い文には、これだけの前提知識が要請されていたのです。さすがは天下のwikipediaですね。

あと一歩

しかし、これだけではまだ「\phiをどんどん累乗していくとどんどん整数に近づく」ことの説明にはなっていません。今わかったことは、「\phi \,^n +\overline{\phi} \,^nnの値をどんどん増やして(どんどん累乗して)いっても、ずっと整数のままだ」ということだけです。\phi^nが整数に近づく理由を理解するには、もうひとがんばり必要です。

ここで「\overline{\phi}」とはどんな数だったか思い出します。これは「\frac{1-\sqrt{5}}{2}」であり、数で言うと-0.618033...のことでした。この数、絶対値が1より小さいですよね。絶対値が1より小さい数は、どんどん累乗していくとどんどん0に近づきます。例えば\frac{1}{3}とは絶対値が1より小さい数ですが、これを2乗、3乗...とどんどん累乗していくことは、「\frac{1}{3}\frac{1}{3}」、「\frac{1}{3}\frac{1}{3}\frac{1}{3}」とどんどんかけていくことと同じです。どんどん0に近づいていってますよね。\overline{\phi}も絶対値が1より小さいので、累乗していくとどんどん0に近づいていくというわけです。

ということで、これまでに2つのことがわかりました。

  \phi \,^n +\overline{\phi} \,^nは、nの値をどんどん増やしていっても整数のまま

  \overline{\phi}\,^nは、nの値をどんどん増やしていくとどんどん0に近づく

この2つを統合すれば、「\phi^n」のnをどんどん増やしていったらどうなるかが分かるはずです。統合するにはどうすればよいか。簡単です。からを引けばよいのです。\phi \,^n +\overline{\phi} \,^nから\overline{\phi}\,^nを引けば\phi^nが残ってくれるというわけです。これはつまり、次のような計算をすることになります。

(nの値をどんどん増やしていっても整数のまま)-(nの値をどんどん増やしていくとどんどん0に近づく)

整数のまま微動だにしない数から、どんどん小さくなっていく数を引くと、後には何が残るか......? そう! 「整数との差がどんどん小さくなっていく数」が残るんですよ! これはすなわち! ほとんど整数!!! というわけだったんですねえ。

他にもある?

いやあ、スッキリしました。この話をすれば飲み会で大ウケ間違いなしですね。

ところで、\phi^nをほとんど整数にしている原因は何だったでしょうか。それは、2次方程式の2つの解の、和も積も整数だったことです。さらに、2つの解において片方は絶対値が1以上、もう片方は1未満であったということもそうです。このような都合のいい非整数はほかにもあるかなーって探すと、例えば方程式「x^2-2x-1」の解の一方である「1+\sqrt{2}」なんかもそうです。この数を\tau(タウ)として表してみると、

\tau ^{12}=39201.999974...

\tau ^{13}=94642.000010...

\tau ^{14}=228485.999996...

\tau ^{15}=551614.000002...

となっていて、やはりほとんど整数になることがわかります。この1+\sqrt{2}は数でいうと2.414213...であり、白銀比という名前がついてます。

おっと。なんだか気になってきましたね。他にはどのような数が、この「どんどん累乗するとどんどん整数に近づく」という性質を持つのでしょうね。

では今日はこのへんで。